第37回 日本脳神経外科学会専門医認定委員会報告

 

委員長:吉本高志
副委員長:橋本信夫,堀 智勝,吉田 純
委  員:岩崎喜信,生塩之敬,遠藤俊郎,大本堯史,
小川 彰,嘉山孝正,片山容一,河瀬 斌,
神野哲夫,桐野高明,久保田紀彦,児玉南海雄,
小林茂昭,榊 寿右,田中隆一,寺本 明,
永田 泉,永廣信治,貫井英明,山浦 晶,
山下純宏,吉峰俊樹
出題委員:有田憲生,藤井清孝,横田 晃
情報処理委員:渡辺英寿
会場委員:喜多村孝幸,森田明夫,城倉英史
恩田英明,刈部 博,近藤健男,斉藤 清,
定藤章代,高橋 潤,高橋 淳,高安正和,
田中 実,野崎和彦,日山博文,宮地 茂,
山根文孝,若林俊彦
脳神経外科学会事務局

 第37回専門医試験は以下のように行われた.

筆記試験(250題):7月13日(土)
場  所:大手町サンケイプラザ
口頭試問:8月17日(土),18日(日)
場  所:東京国際フォーラム
 
受験者総数:318名
最終合格者:192名(60%)
筆記試験受験者:300名
筆記試験合格者:198名(66%)
口頭試問受験者:216名
口頭試問合格者:192名(89%)

合格率年次推移:

合格者
合格率
1992年
224
59.6%
1993年
237
61.2%
1994年
242
62.2%
1995年
216
58.7%
1996年
218
57.7%
1997年
217
61.6%
1998年
221
58.0%
1999年
238
61.7%
2000年
250
65.3%
2001年
223
64.1%
本 年
192
60.4%

 


筆記試験:250題(5肢中1〜3肢選択
1. N関門:55題(神経解剖・神経生理・臨床神経,手術・患者管理,機能的外科・末梢神経)
V関門:70題(脳血管障害70題)
T関門:70題(脳腫瘍65題,感染5題)
I関門:55題(頭部外傷20題,脊椎・脊髄20題,小児15題)
2. 妥当性チェック
除外基準(合否判定に用いないもの)
1) 上位1/4の正解率が20%以下
2) 識別指数(上位1/4と下位1/4の正解率の差)がマイナスの問題
 

 


筆記試験例題:20題

1. 頸部超音波エコーを示す(図1).このプラークの性状を適切に表現している記述はどれか.1つ選べ.
A アテローム沈着が主体である.
B 線維性肥厚が主である.
C 安定型プラークである.
D 石灰化を伴っている.
E 潰瘍が著名である.
  図1
Bモード              color flow imaging

 

2. 少量のくも膜下出血の検出に最も有効なMRI撮影法を1つ選べ.
A T2強調画像
B FLAIR(fluid-attenuated inversion recovery)法
C STIR(short T1 inversion recovery)法
D 拡散強調画像(diffusion weighted image)
E 灌流画像(perfusion image)

 

3. 左内頸動脈撮影正面,側面像を示す(図2・3).pterional approachにてクリッピング手術を行った.必要な処置として誤りはどれか.1つ選べ.
A 頸部頸動脈を確保する.
B 前床突起を削る.
C 動脈瘤の穿刺あるいは減圧をする.
D 後交通動脈はsacrificeできる.
E 前脈絡叢動脈はsacrificeできない.
  図2・3

 

4. warfarin sodium内服中の脳出血患者において,抗凝固状態を改善させるのに有効なものはどれか.3つ選べ.
A メシル酸ナファモスタット
B プロトロンビン複合体
C グロブリン製剤
D 新鮮凍結血漿
E ビタミンK

 

5. 40歳男性,数日前から頭痛があり,また一過性の右半身麻痺と言語障害が数回あった.3日後に症状悪化し,回復しなくなった.翌日のCTと同日行った左頸動脈撮影像を示す(図4・5).診断は何か.1つ選べ.
A 脳動脈瘤と脳血管攣縮による梗塞
B 脳動脈瘤破裂による血液漏出とそれに伴う脳浮腫
C 脳動脈瘤に中大脳動脈閉塞の偶然合併
D 脳動脈瘤の圧迫による脳血管閉塞による脳梗塞
E 脳動脈瘤内血栓からの塞栓による脳梗塞
  図4・5

 

6. 左頸動脈撮影で前交通動脈瘤が造影されている(図6).矢印の血管を閉塞した場合,主に下記のどの部位に梗塞巣が出現するか.2つ選べ.
A 被殻
B 前頭葉底部
C 視床下部
D 尾状核頭部
E 内包後脚
  図6

 

7. Tolosa-Hunt症候群の以下の特徴の中で,適切ではないのはどれか.1つ選べ.
A 一側の眼窩後部痛
B 外眼筋麻痺
C 正常の画像所見
D ステロイドにより改善
E 経過観察により悪化しない.

 

8. 同一症例の2枚の単純CTを示す(図7・8).この症例の症状で最も考えられるのはどれか.1つ選べ.
A 眼球運動による意志疎通は可能である.
B ホルネル症候群と小脳性運動失調を呈する.
C 意識は比較的保たれるが,球麻痺を呈する.
D 刺激を加えないと閉眼している状態を呈する.
E 記銘力障害や人格変化を呈する.
  図7・8

 

9. 図9は皮膚知覚の分節性支配を示している(皮膚分節dermatome).ただし,表示された髄節番号には誤りが多い.正しいものを2つ選べ.
A C1
B C6
C T1
D L1
E S1
  図9

 

10. Schaltenbrand Wahrenの冠状断定位脳神経手術図譜を示す(図10).1〜5の部位で,定位脳手術で凝固破壊すると視野障害が出現するのはどれか.1つ選べ.
A 1
B 2
C 3
D 4
E 5
  図10

 

11. 急性硬膜下血腫を伴った乳児被虐待児症候群(battered child syndrome)について正しい記述を3つ選べ.
A 診断には皮膚に打撲痕(あざ,腫脹など)や火傷痕を伴っていることが必須条件である.
B 硬膜下血腫は架橋静脈の破綻によると考えられている.
C 術中に出血性ショックをきたすことがあるため輸血ないしその準備が必要である.
D いわゆるshaken baby syndromeとは全く別の範疇のものである.
E 本症候群が疑われる場合には福祉事務所または児童相談所に通告(連絡)しなければならない.

 

12. 1歳2ヵ月男児,頭部の変形を主訴に来院.3D-CTを示す(図11).診断は何か.1つ選べ.
A brachycephaly
B plagiocephaly
C trigonocephaly
D oxycephaly
E scaphocephaly
  図11

 

13. 53歳男性,後頭部痛と両手指,左上肢の感覚鈍麻で発症した.神経学的には,両上肢にごく軽度の運動,感覚障害がある.MRI(T1,Gd増強T1,T2強調画像)を示す(図12).鑑別上有用でないものを1つ選べ.
A 髄液検査
B 胸部単純撮影
C 脊椎単純撮影
D 生検
E ステロイドの2週間投与
  図12

 

14. 重症頭部外傷患者において,SjO2の値が75%から60%に低下した.その原因の解釈で正しいものを2つ選べ.
A CMRO2の低下
B 脳灌流圧の低下
C Hbの増加
D 頭蓋内動静脈短絡(A-V shunt)の出現
E てんかん発作

 

15. 次の腫瘍のうち,WHO grade Iはどれか.3つ選べ.
A pilocytic astrocytoma
B pleomorphic xanthoastrocytoma
C myxopapillary ependymoma
D clear cell ependymoma
E subependymoma

 

16. 遺伝性疾患に合併する腫瘍で誤りはどれか.2つ選べ.
A Gorlin症候群  medulloblastoma
B Li-Fraumeni症候群  astrocytoma
C von Hippel Lindau病  pheochromocytoma
D Cowden症候群  hemangiopericytoma
E Turcot症候群  germinoma

 

17. 47歳のNF2男性,歩行障害が出現した.MRI(T1造影)と組織所見(HE×200)を示す(図13・14).最も考えられる診断はどれか.1つ選べ.
A pilocytic astrocytoma
B hamartoma
C subependymoma
D hemangioma
E schwannoma
  図13・14

 

18. 複視と頭痛を訴える58歳男性が,MRIで松果体部に均一に増強される腫瘍を発見され,摘出術を受けた.組織標本(HE)を示す(図15).この患者の術前の血清中に高値を示しうるものはどれか.1つ選べ.
A beta-HCG
B alpha-fetoprotein
C placental alkaline phosphatase
D carcinoembryonic antigen
E beta2 microglobulin
  図15

 

19. 髄腔内投与可能な抗腫瘍剤はどれか.2つ選べ.
A cisplatin
B cytosine arabinoside
C ifosfamide
D methotrexate
E etoposide

 

20. AIDS(後天性免疫不全症候群)に合併する脳内感染症で頻度の低いのはどれか.1つ選べ.
A cytomegalovirus encephalitis
B cryptococcosis
C toxoplasmosis
D histoplasmosis
E PML(progressive multifocal leukoencephalopathy)

 


 参考として上記20題の妥当性チェックの数字を示す.括弧内の左の数字は上位1/4の正解率,右の数字は識別指数を記す.

1.(81,31), 2.(90,41), 3.(86,23), 4.(94,32),
5.(83,16), 6.(86,54), 7.(67,45), 8.(77,30),
9.(78,24),10.(68,24),11.(97,21),12.(63,49),
13.(63,26),14.(77,22),15.(92,59),16.(94,73),
17.(86,32),18.(64,41),19.(96,45),20.(90,21)

 


口頭試問

 各関門で以下の問題が出題された.

1. Tumor, Infection

pineocytoma
metastatic tumor
CP angle meningioma

pituitary adenoma
medulloblastoma
parasagittal meningioma

pituitary adenoma
germ cell tumor
CP angle meningioma

epidermoid
astrocytoma in supplementary motor area
convexity meningioma

jugular foramen schwannoma
frontal glioblastoma
trigone meningioma

vestibular schwannoma
frontal anaplastic astrocytoma
tuberculum sellae meningioma

2. Vascular, Functional surgery

incidental MCA aneurysms on both sides
ruptured cerebellar AVM
moyamoya disease in an infant

incidental AComA aneurysm
temporal lobe AVM with hematoma
ICA stenosis in acute stage

incidental AComA aneurysms
ruptured frontal lobe AVM
ICA stenosis in acute stage

ruptured distal ACA aneurysm
ruptured temporal lobe AVM
cardiogenic embolism

ruptured MCA aneurysm with contralateral IC-OP aneurysm
incidentally found small AVM
TIA and EC/IC bypass

ruptured IC-PC aneurysm with contralateral IC-OP aneurysm
frontal dural AVF
IC stenosis

3. Trauma, Spine, Pediatric

VA shunt procedure
depressed skull fracture
Chiari I

acute subdural hematoma
hemangioblastoma
dermal sinus

schwannoma
myeloschisis
blow-out fracture

cervical spondylosis
brain abscess
posterior fossa acute epidural hematoma

L5-S, hernia
L-2 lipoma
traumatic IC aneurysm

cloverleaf
depressed fracture + ICH
spinal cord injury