一般の皆様へ

         
             

―くも膜下出血(脳動脈瘤破裂)の治療について―
   
             

くも膜下出血はいわゆる「脳卒中」のひとつであり、生命を脅かし、脳に重篤な障害をもたらすことの多い危険な病気です。 この病気に対しては平成12年度厚生科学研究費補助金 (医療技術評価総合研究事業)により「科学的根拠に基づくクモ膜下出血診療ガイドライン」が作成され、一般の皆様用の説明がありますのでご参考までに掲載します。
 その治療のうち、「再出血の予防処置」はとくに重要であり、その方法は大きく分けると「開頭手術」と「血管内治療」の2種類あります。最近、そのうちどちらが良いかとの質問が増えてきておりますので補足します。

 「開頭手術」では動脈瘤を露出し、その柄部(根もと)をクリップでとめるものであり、再出血予防効果が確かであることが 明かとなっていますが、脳を露出し、圧排する操作は 避けられず、手術による全身状態への影響も考えなけれぱなりません。 これに対し、「血管内治療」では脳に直接触れることなく動脈瘤内部にコイルを充填するものであり、全身状態への影響も少ないと考えられますが、術中から術後しばらく抗凝固・抗血小板療法(血液を固まりにくくする治療)を必要とし、再出血予防効果、とくに長期的な効果についてはまだデータの集積段階にあります。また、「開頭手術」「血管内治療」どちらにもそれぞれの手技に伴う合併症を発生する可能性があります。
 二つの治療法にはそれぞれ長所と短所があるわけですが、どちらの方法もすべての動脈瘤に適用できるものではありません。 動脈瘤は、下図のように、(1)どちらの治療法も適用困難なもの(適用外のもの)、(2)「開頭手術」の方が適しているもの、 (3)「血管内治療」の方が適しているもの、そして(4)どちらも適用可能なもの、に分けることができます。 このうち「開頭手術」と「血管内治療」のうちどちらがよリ適しているかは、患者さんごとに 全身状態や動脈瘤の部位、大きさ、形などを考慮して考える必要があります。高度に専門的な判断が要求されるわけですが、その一部はこのホームページのうち「脳神経外科 学会会員の皆様へ」に解説されていますのでご参照ください。

 
             
         
  治療法の適否からみた脳動脈瘤の分類。

(1)いずれの治療法も適用し難いもの
(2)開頭手術が適しているもの
(3)血管内治療が適しているもの
(4)どちらの治療法も適可能なもの
   
         
             
クモ膜下出血(脳動脈瘤破裂)の治療について
   
             
はじめに
 
             
クモ膜下出血は脳動脈の異常により脳の表面に出血をきたすものです。脳卒中の一種ですが、突然発症し、強い脳障害を残すか死亡にいたることの多い危険な病気です。その診療には専門的な知識と技術が必要ですが、この説明書はクモ膜下出血の中でも、とくに多い脳動脈瘤破裂の治療について一般的に分かりやすく解説したものです。
 実際の治療の場では、患者さんごとに病状がかなり異なりますので、担当医の説明が重要であることは言うまでもありません。
 
             
クモ膜下出血(脳動脈瘤破裂)に関する一般的事項
   
             

【クモ膜下出血とは?】
 脳の表面は薄い透明の膜(クモ膜)でおおわれていますが、この膜と脳との間には少し「すき間」があります。これを「クモ膜下腔」といい、普通は水のように無色透 明の液体(脳脊髄液)で満たされています。何らかの原因でこの「すき間」に出血したものが「クモ膜下出血」です。その最も多い原因は「脳動脈瘤の破裂」です。

【脳動脈瘤破裂とは?】
 
脳を養う主要な動脈(主幹脳動脈)は脳表の「クモ膜下腔」を走っています。この動脈は、一部が風船状にふくらんで「こぶ(瘤)」のようになることがあります。これを「脳動脈瘤」と呼びます。「脳動脈瘤」は内部の血圧により徐々にふくらみ、 壁が薄くなって突然破裂します。これが「脳動脈瘤破裂」です。破裂による出血は「クモ膜下腔」に拡がり「クモ膜下出血」となります。

【どれくらい多いのか?】
 クモ膜下出血は1万人あたり1年におよそ2人の割合で発生しています。喫煙者、高血圧の方、痩せている方や、多量の飲酒が続いたり、感染症にかかった場合などでは、より発生しやすいといわれます。
 また、家族性に発生する傾向もあり、脳動脈瘤が破裂した方の近親者(一親等以内) では、約4%の方に脳動脈瘤が発見されるといわれます。

【脳動脈瘤が破裂したらどうなるのか?】   
(典型的症状)
 クモ膜下出血の典型的症状は「経験したことのないような突然の激しい頭痛」です。そのまま意識をなくすこともあります。

(警告症状)
 本格的な出血の前に少量だけ出血し比較的軽い症状を来すこともあります。頭痛、むかつき・意識消失・めまいなどですが、これは「警告症状」として注意を要します。

〈出血後の経過)
 クモ膜下出血をきたしたあとで重要な点は、出血が一時的に止まっていても、しばしば「再出血」を来して状態を非常に悪化させることです。また、出血後数日から2 週間ほど経過してから、脳の血管が異常に細くなることがしばしばあり、これも状態を悪化させます(「遅発性脳血管撃縮」)。その他、脳や全身に生じる様々な合併症も状態を悪化させる要因になります。
クモ膜下出血をきたした患者さんは、発症した時点で重症であればあるほどその後の回復も悪く、死亡率も高くなります。全体的な死亡率は1O〜50%といわれます。

   
             
診断
   
             

クモ膜下出血はできるだけ早く診断され、専門医(脳神経外科医)の治療を受けることが必要です。

【検査法】
<頭部CT検査>
 診断には頭部のCT検査が適しています、これにより脳表面にたまった出血が「白いかげ」としてみられます(写真1参照)。ただし、出血後日数が経つと次第に「かげ」は薄くなり、診断しにくくなります。

<腰椎穿刺>
 クモ膜下出血が疑われるにもかかわらず、頭部のCT検査で出血が明らかでない場合には「腰椎穿刺」を行いクモ膜下出血の有無を確認する必要があります。これは腰から注射針を刺して「脳脊髄液」を採取し、出血の有無を調べる方法です。

<脳血管撮影>
 クモ膜下出血と診断された場合には、その出血源を明らかにすることが大切です。そのため、脳血管撮影検査で脳血管の精密な検査を行います。
 1回の検査で出血源が発見できなかった場合には、日をおいて検査を繰り返します。

写真1)頭部CT検査所見  
正常の脳(左写真)では黒く写っている脳脊髄液の部分が、クモ膜下出血を来すと血液が「白いかげ」として写ります(右写真)。

 

   
             
       
             
治療
   
             

脳動脈瘤が破裂してクモ膜下出血を起こした時には、まず「再出血の予防」を行うことが最も重要です。ついで「遅発性脳血管撃縮」の予防と治療を行います。その他、水頭症や脳内血腫など脳の合併症や他の全身合併症への適切な対応も必要です。

【初期治療】
 発症直後は安静を保ち、鎮痛、鎮静をはかります。重症の場合には呼吸や心臓の機能にも注意を払わねばなりません。

【再出血予防処置】
 再出血を予防する方法として、@「開頭手術」によるもの、A開頭せず「血管内治療」によるものがありますが、両方とも困難な場合には、B「保存的治療」(薬物などによる内科的治療)を行うこととなります。
 どの治療法が最善かは、患者さんの重症度、年齢、合併症、脳動脈瘤の部位、大きさ・形などを考慮した専門的な判断が必要です。どちらの方法でも、出血後早期 (3日以内〕に行うことが勧められます。

<開頭手術>
 いく種類かの方法がありますが、できれば専用のクリップを用いて脳動脈瘤の根元を挟み、出血を防ぐ方法をとります(「クリッピング術」)。(図1参照)

<血管内治療>
 いく種類かの方法がありますが、できれば脳動脈瘤の内部にコイルを詰めて、内部を閉塞してしまう方法(「コイル塞栓術」〕を行います。(図2参照) 

<保存的治療>
 過度の血圧上昇を抑え、安静を保ちます。再出血予防効果は充分とはいえません。

【遅発性脳血管掌縮の予防と治療】
 「遅発性脳血管攣縮」の予防や治療にもいくつかの専門的な方法があります。これらの治療にも関わらず強い血管撃縮が起こると脳血流が不足して脳梗塞を生じ、状態は非常に悪化します。

【急性期以後の治療】
<脳室腹腔短絡術(VPシャント)>

 急性期を過ぎるころから脳脊髄液の吸収不良による水頭症を発生することがあります。意識障害が続いたり、痴呆症状、尿失禁、歩行障害などがみられます。脳脊髄液をおなか(腹腔内)に流す脳室腹腔短絡術(VPシャント)を行う必要があります。

<リハビリテーション>
 一般的には早期に開始することが勧められますが、クモ膜下出血の場合には再出血や脳血管攣縮、水頭症、その他の合併症に留意して患者さん毎に考える必要があります。

<外来診療>
 退院した後も当分のあいだは外来に通院し、定期的診察や検査を受けることが勧められます、再出血の予防処置がとられていても少数の方では長期間の間に脳動脈瘤が再び増大したり、再出血を来す場合もあります。

   
             
(図1)「 開頭手術」による「脳動脈瘤クリッピング術」
 開頭術により脳動脈瘤、とくにその根元(頚部)を確認し(左図)、専用のクリップ (脳動脈瘤クリップ)で挟み(右図)、動脈瘤から出血しないようにします。
   
             
 
             
(図2)「血管内治療」による「コイル塞栓術」
 太股の付け根の動脈から血管内に細いカテーテルを通し、先端を脳動脈瘤まで 誘導します。このカテーテルを用いて脳動脈瘤の内部に極めて細いコイル(マイクロコイル)を少しずつ詰めていき(左図〕、内部を塞いで出血しないようにします(右図)。
   
             
   
             
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日本脳神経外科学会
http://jns.umin.ac.jp/